2021.10.29

ICT活用の両側面

 国立大学法人東京学芸大学ICTセンター長の木村守です。
 本実証における本学の役割は、ICT を活用した授業が教科の狙いを達成できているか、学術的にアドバイスを行うことです。
 この記事ではICT活用における2つの側面を論じています。


 

 ICT活用には、ICT機器や各種アプリケーション(以下 アプリ)の特性を知りよく理解した上でそれらを授業にどう活かしていくかという側面と、授業をより魅力的にそして子どもの学びを深めるために、先生方が普段の授業の中でどう効果的にICTを活用していくかという側面がある。
 2021年4月に東京都小金井市(以下 小金井市)、国立大学法人東京学芸大学(以下 学芸大)、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下NTT Com)の3者連携の最大の強みはICT活用を両面から確実に進めていくことにあると考えている。

 NTT Comの「まなびポケット」に含まれる様々なアプリは学校の授業や家庭での学習における子どもたちの学びを支援するものである。それぞれのアプリの特徴を知り、活用法を検討し実践していくことでICTスキルを身につけ、先生方や子どもたちのICT活用能力の向上をめざす。
 既成アプリを授業に活用していくためには、アプリそのものをよく知る必要があり、どのアプリにどのような機能が備わっているのか、また操作法や活用時の注意点なども事前に理解が必要である。NTT Comが定期的に研修会を開催しているが、今後アプリがバージョンアップされたり、新機能を持ったアプリの開発も考えられ、特にそれに伴って操作性が大きく変更される場合などは十二分のフォローアップが必要であろう。
 一方で、学芸大と小金井市の連携では、ICT活用のもう一つの側面である、教科の学びを豊かにするために言わば授業ファーストでの活用をめざす。各教科の学びを進めていく際に、どのような授業のどのような場面にどのような機器やアプリをどのように活用するか、ということを現場の先生方と教科教育学を専門とする大学教員で協働して検討し実践していくことになる。
 夏休み前には小金井市と事前に協議を重ねた後に、14の小中学校(小学校9校、中学校5校)と学芸大のコアメンバーとで個別のキックオフミーティングを行った。各学校毎に重点教科や取り組みについて具体的に確認した上で、現在は個別に連携を組む学芸大の担当教員を定めて連携チームを結成し、2学期以降の研究連携に向けてスケジュールの調整を始めたところである。

 上述したように、小金井市は既にNTT Comと連携しGIGAスクール構想に基づき1人1台端末の活用に向けた「まなびポケット」のアプリの活用を進めてきていて、ミーティングを行ったほとんどの学校で活用が広がっているものの、その活用実態については学校毎や学校内でも教員間でかなり差があることは否めない。しかし、これは単純に学校間、教員間のICT活用能力の差と考えることはできない。機器の整備の問題やネットワーク環境の問題といった授業者では対応できない要因が立ちはだかり、ICT活用したくてもできないケースもあり、ICT活用に結びついていないこともその原因の一つであると思われる。
 ICT活用の研究実践には、最先端的な(ある意味試行的ともいえる)実践と標準化一般化された実践があり、全ての教員が実践可能なICT活用をめざすという場合は後者に重きが置かれる。その場合、授業をする教室の環境が必ずしもICT活用に十分対応していない可能性があるため、年に1、2回の研究授業であれば想定しうるトラブルに対して二重三重の代替手段を用意しておくことも可能であるが、日々の授業においてはほぼ不可能である。
 小金井市と学芸大の連携では、こうした不安をできるだけ解消できるよう環境に応じたICT活用に取り組んでいきたいと考える。授業準備の段階、実際に授業をする段階、授業後の段階などへの直接的な活用だけではなく、授業のための時間を確保するという意味で公務等への活用もまた間接的なICT活用となる。例えば「朗読がうまくできるようなサポートはできないか」「作品をお互いに評価し合う場がほしい」「子どもたちの発言をできるだけスムーズに共有したい」「子どもたちの意見の集計などを簡単に処理したい」など、授業内外でICT活用案は、教科に特化したものから複数の教科に共通するものまで多種多様である。いろいろなことに対応できるよう大学のICTセンター及び情報担当教員を中心に可能なかぎりバックアップする体制も整えていきたい。

 冒頭で、ICT活用には「アプリをどう授業へ活用するかという側面」と「授業にどうアプリを活用するかという側面」があるということを述べた。図にすれば以下の通りとなる。ただし、これはどちらがよい悪いということではない。

図1 アプリを授業へする活用

図2 授業へのアプリの活用

 一見すると、図1はアプリありきの活用ではないかと思われがちであるが、どのようなアプリであっても何もないところから突然産まれたということはなく、もちろん本来全く別の用途で開発されたものもゼロではないものの、ほとんどは授業等への活用を求められて(つまり図2の段階を経て)開発されたものである。授業をする立場としては、アプリの機能を知ることと合わせ、少なくともそのアプリがどう活用されることを想定して開発されたものかを理解することで、自ずと授業への活用イメージができあがる。
 NTT Comと学芸大との連携においては、NTT Comの提供しているアプリの開発背景などについてもしっかりと情報共有していくことで、小金井市と学芸大の連携をより機能させることにつながっていく。そういう意味でも、小金井市とNTT Comと学芸大の3者連携はICT活用の最大の強みとなることを期待している。