2021.12.10

研究レポート①-5:小金井市立南中学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取組を紹介していきます。

小金井市立南中学校
次世代教育推進委員
松沢雄樹 教諭

小金井市立南中学校
原島綾子 教諭

【1】研究・研修テーマについて

~ICTによる学習効率の向上に向けて「まなびポケット」の活用を推進〜

 南中学校は1学年と3学年がそれぞれ4クラス、2学年が3クラスの合計11クラスで2021年度の新学期を迎えました。同校では小金井市内の他校に先行するかたちでICT端末の配備が進められ、2020年時点で生徒1人1台のICT端末(Chromebook)の配備が完了し、2020年には各クラスに1台ずつ保管庫が設置されています。

 そうした同校がGIGAスクール構想における研究・研修の大テーマとして掲げているのは「ICT機器を活用して、学習の効率と効果を向上させる」ということです。また2021年度においては「まなびポケット」の活用率をさらに上げることにも取り組んでいます。

 その取組を推進する理由について、同校で次世代教育推進委員を務める英語科の松沢雄樹 教諭は次のように説明します。

 「当校ではChromebookの導入が早い時期から進められてきたことから、授業でのChromebookの活用率は一定水準以上にあると見ています。それでも、すべての授業で日常的にChromebookが使われているわけではなく、『まなびポケット』についても活用率はまだ高くありません。そこで、ICTによって学習の効率、効果を上げるというテーマに取り組みながら、『まなびポケット』の有効な活用方法を見出すことにも注力しています」

 この方針のもと、同校では2021年度の1学期において、新たに赴任してきた教員への研修を主目的にChromebookと「まなびポケット」の講習会を実施しました。それを通じて、全教員がChromebookの使用方法をはじめ、「まなびポケット」へのログイン方法、「スクールタクト」を使用して課題を作成する方法など、基礎的な知識を身に付けています。

【2】協働学習、調べ学習でICTの有効性を確認

 1クラスに1台のChromebook保管庫がいきわたる以前、同校では資料室にChromebookを集中的に配置・保管しておき、必要に応じて持ち出して使うというスタイルをとっていました。その活用スタイルは、教員にとっても、また、生徒にとっても決して利便性の高いものではなく、結果としてChromebookの授業での使用はさほど進展を見せず、使い方も「調べ学習」などに限定されていたと、同校の原島綾子 教諭(英語科)は振り返ります。

 のちに各クラスに保管庫が配備されるなど、ICT環境の整備が進むにつれて、総合や道徳の時間を中心にChromebookを使った調べ学習、協働学習が学内で広がり始めたといいます。とりわけ、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響によって対面学習に厳しい制約がかけられてからは、協働学習におけるChromebookの活用が大きく進展し、スクールタクトが使われるケースも増えていったようです。

 「Chromebookとスクールタクトを使うことで、生徒たちがそれぞれの意見を発信しながら話し合いを行ったり、1つのドキュメントを共同で編集したりする環境が容易に作れます。そのおかげで、対面学習が難しくなった際も、クラスでの調べ学習、協働学習がスムーズに進められたと感じています」と、松沢 教諭は語り、その一例として校外学習の下調べにスクールタクトを使用した例を挙げます。

 「昨年(2020年)、Chromebookとスクールタクトを使い、校外学習で赴く場所の見どころなどを班に分かれて調べて、調べた結果を1つのプレゼンテーション資料にまとめ上げるという授業を行いました。校外学習自体はコロナ禍の影響で中止になったのですが、生徒たちがまとめ上げた資料はどれも非常に良い出来栄えで、調べ学習・協働学習でICTを活用する効果の高さを実感しました」(松沢 教諭)

【3】授業でのChromebookの活用も進展

 2020年以降は、道徳や総合以外の授業でのChromebookの活用も徐々に進み始めたといいます。

 「松沢先生がおっしゃられたとおり、当校の場合、『まなびポケット』の活用率はそれほど高くありませんが、Chromebook自体の活用率は高いと言えます。実際、多くの先生がChromebookを使いながら、デジタル教科書をはじめGoogle Classroom、ビデオ会議ツールのZoom、動画サービスのYouTubeなどを授業に生かしています」(原島 教諭)

 例えば、同校での英語の授業ではデジタル教科書を使用しているほか、原島 教諭はGoogleフォームを使いながら、授業の理解度を問うアンケートを実施しているといいます。

 加えて、体育の授業や運動部の部活動では、Chromebookを用い、生徒たちが自分たちのビデオを撮影し、競技中のフォームのチェックや指導に使うといったことが普段から行われています。同様に、音楽の授業ではYouTubeを通じて合唱コンクールで扱う楽曲を生徒たちに視聴させたり、生徒たちに自分の歌声をChromebookに録音させ、練習・指導に活かしたりしています。

 「人前ではなかなか歌えない生徒もChromebook相手なら抵抗感なく歌えるようです。この辺りは、人前で発言するのが苦手な生徒もChromebookを介すことで自分の意見を積極的に発信するようになるのと同じです。その意味で、ChromebookのようなICT端末は生徒たちに自己を表現させ、これまで見えていなかった才能を引き出すうえで、とても有用であると言えそうです」(原島 教諭)

【4】Chromebookの持ち帰りを推進

 2020年度では新学期が始まってからすぐに緊急事態宣言が発出されましたが、南中学校では同宣言下の休校期間中、生徒たちにChromebookを自宅に持ち帰らせたうえで、教員がスクールタクトで作成した課題に取り組ませ、提出させています。

 「休校期間中におけるChromebookの持ち帰り学習は全学年を対象にして行い、なかでも3年生については、英語・国語・数学・理科・社会という5教科すべての課題をスクールタクトで作成し、生徒たちに取り組んでもらいました。のちの夏季休業中も同様にChromebookの持ち帰り学習を実施しています。その中で、いくつかの科目ではスクールタクトと併せて『まなびポケット』のドリル教材も使用されています」(原島 教諭)

 同校の場合、病気・ケガなどによって相応の期間、登校できなくなった生徒のためにChromebookをそれぞれの自宅に送り届け、授業風景・授業内容をまとめた写真・動画を自宅で閲覧できるようにするといった取り組みも行われています。

 さらに、英語の授業では、ケガで登校できない生徒に向けて、授業内容をZoomでリアルタイムに配信する(生中継する)試みも行われました。

 「この試みは、登校できないことで勉強が遅れてしまう生徒の不安を解消する有効な一手となりました」と、松沢 教諭は明かします。

 このほか、同校では「まなびポケット」のメッセージ機能を使い、不登校の生徒に対して学校の様子を適宜伝える取り組みを展開しています。

 「不登校の生徒にとって、教員による電話や家庭訪問は精神的な重圧になりかねませんが、ICTでメッセージを送るだけであれば、不登校の生徒たちにそれほど大きな精神的負担をかけないで済みます。彼らとのつながりを保ち、登校を促すためのツールとしてこれからも『まなびポケット』を使い続ける考えです」(松沢 教諭)

【5】「まなびポケット」の可能性を追求していく

 以上のように、南中学校では授業でのChromebookの活用が着実に進んでおり、「ICTの活用による学習効率や成果向上の実現」というテーマに取り組みつつ、「まなびポケット」の効果的な活用方法を模索しています。

 「先生たちは、授業の作り方、進め方についてそれぞれのスタイルを確立しており、相当の利便性や合理性を感じない限り、ICTの新しいツールを授業に取り込もうとはしません。加えて、学習指導要領の改訂によって中学生が学ぶべきことが増え、先生たちは新しいツールを授業で試す時間的なゆとりもあまり持てないのが現実です。ゆえに、『まなびポケット』についても、スクールタクトを使う先生は増えているものの、それ以外の教材アプリケーションを使おうとする先生は少ないと言えます。また、教科によっては従来から使用してきたデジタル教科書に加えて『まなびポケット』のアプリケーションを使う方法が明確になっていないなどの課題があります」(松沢 教諭)

 こうした状況を打開する一手として、同校では2021年11月1日から全校生徒の「健康観察」をスクールタクトで行うようにしています。

 また、Chromebookと「まなびポケット」を使った新しい授業を、教科ごとに何か1つ考案するという試みも展開されています。この試みを通じて、英語科では「まなびポケット」の「EnglishCentral」を使った新しい授業を考案し、ほかの教科でも「まなびポケット」のアプリケーションを使った授業の策定が進められています。

 さらに原島 教諭は、他校の事例を広く集めることも「まなびポケット」の活用率を高めるうえでは重要であると指摘し、次のように話を締めくくります。

 「先生たちの間では『まなびポケット』の活用法を交換することが日常的に行われていますが、活用のアイデアを広げるうえでは、他校がどのようにChromebookや『まなびポケット』を使っているかを知ることが大切です。その意味で、他校の活用事例を、そのエッセンスをまとめた映像とともに数多く入手できる場が提供されることを望んでいます」