2021.12.15

研究レポート①-6:小金井市立第二中学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

取材ご協力
小金井市立小金井第二中学校
技術科(第1学年所属) ICT委員会委員長
吉田翔太郎 教諭

理科(第3学年所属) ICT委員会委員
髙瀬哲平 教諭

【1】研究・研修テーマについて

~ICTを文房具と同じ身近な学習のツールとして活用していく〜

 第二中学校は1学年4クラスと特別学級から構成され、特別支援学級以外は1クラスに30名前後の生徒が学んでいます。

 同校においてGIGAスクール構想に則った「生徒1人1台端末」の環境が整えられたのは2021年1月のことです。その数カ月前から生徒1人に1台の割合でICT端末(Chromebook)が配備されましたが、通信環境(Wi-Fi環境)の整備が十分ではなく、Chromebookや「まなびポケット」を使った授業がスムーズに行えない状況にありました。こうした状況が改善され、GIGAスクール構想を実質的に始動させられるようになったのが2021年1月のことだったと、同校のICT委員会委員長の吉田翔太郎 教諭は振り返ります。

 吉田教諭が委員長を務めるICT委員会はGIGAスクール構想の始動に伴い設置された組織です。各学年と特別支援学級に1人ずつ委員が置かれ、吉田教諭を含めて5人の教員で委員会が構成されています。そのICT委員会が中心となり、GIGAスクール構想の研究・研修テーマに設定したのは「最低でも1日1回は生徒がICT機器を活用すること」と、協働学習に「まなびポケット」やICT機器に活かすことです。併せて、授業と校務分掌の両面で教員によるICT活用を促進することもテーマとして掲げられました。

 これらの研究・研修テーマを設定した理由について吉田教諭は次のように説明します。

 「当校では、GIGAスクール構想が始まる以前から、PC教室を設置して学習にICT端末を使っていましたが、PC教室のICT端末はあくまでも全生徒が共有して使うもので、生徒各人が身近にある文房具にように気軽に使うことはできませんでした。それがGIGAスクール構想によって、生徒たちは授業中、気軽にICT端末が使えるようになります。その利点を最大限に活かために、まずは生徒によるICT端末の活用を校内に浸透させることが大切だと考えました」

【2】授業でのICT活用のノウハウを職員会議で共有

 上述したテーマのもと、第二中学校では生徒と教員に向けた研修を計画し、実行に移しています。職員会議の時間を10分程度使い、各教員のICT活用について実践報告を毎月1回から2回のペースで行い、活用方法の共有を図っています。

 一方、生徒のICTスキルの向上については、基本的に授業での活用を通じて行っています。この点について、ICT委員会委員の髙瀬哲平 教諭は次のような説明を加えます。

 「今日の中学生はICT端末の扱いに馴れていて、初めて使う『まなびポケット』の教材でもすぐに使い方を習得します。ICTを使った授業を通じて生徒たちのICTスキルは自ずと向上していきますし、彼らのスキルはすでにChromebookや『まなびポケット』の教材を自習で使うのに十分なレベルにあると言えます。そのため、先生たちには、生徒の自習に適した『まなびポケット』のドリル教材の活用も勧めています」

【3】学校長の施策が授業でのICT活用を大きく後押し

 先に触れたとおり、第二中学校では当初、Wi-Fi環境が整っていなかったことからChromebookの通信品質が安定せず、授業の進捗が滞るという問題が起きていました。それが結果的に、授業でのICT活用に対する教員たちの意欲に水を差すことにつながったといいます。

 ただし、のちにWi-Fi環境の整備が進み、Chromebookの通信品質が改善されたことで、ICTが比較的導入しやすい道徳・総合の時間を中心にChromebook活用が進展し、すべての教科でのChromebookの利用が活発化しています。とりわけ、2021年6月を境に授業でのChromebook利用が一挙に増え、6月の「まなびポケット」を2日に1回の頻度で使用する生徒の割合が全体の46%に上りました。また、新型コロナウイルス感染症の再流行といった有事に備える(遠隔授業の)取り組みの一環として、オンライン学活の試みもすでに始めています。これは、5時間目終了後に生徒たちがChromebook携行したまま一斉下校し、各家庭と学校を結んでWeb会議ツール(Zoom)による学活を行うというものです。

 同校でのICT活用が大きく進展した背景には、上述したICT研修や情報共有の取り組みのほかに、同校の川井まさよ校長による施策が奏効したことがあるようです。

 川井校長は1週間に1回程度は授業にICTを活用するよう教員各人に求めるのと併せて、2021年6月には教員の週案を通じて授業におけるICTの活用状況をチェックする施策も打ち出しました。この施策は、教員から提出される週案を使い、その教員が1週間の中でICTを授業で使用したどうかだけではなく、青色と赤色のシールによって活用の仕方も確認するというものです。例えば、Chromebookを通じて生徒に教材を提示するだけの場合は青色のシールを、教材を使って共同作業・協働学習を行わせる場合には赤色のシールをそれぞれ週案に貼り付けるというルールのもとで運用されています。

 このように学校長が授業でのICT活用に意欲とこだわりを示すことは、教員たちの刺激となり、GIGAスクール構想の大きな推進力になっていると吉田、髙瀬の両教諭は指摘します。また、シールを使った週案の施策は、ICT活用に関する報告業務の工数を減らす効果もあり、その点でも授業でのICT活用に熱心な教員を後押しする施策でもあったといいます。

【4】積み残されている課題

 第二中学校は、GIGAスクール構想を前進させるうえでの課題もいくつか抱えています。

 課題の1つは、Wi-Fi環境の一層の充実です。上述したWi-Fi環境の改善によってChromebookの通信品質は向上したものの、全校集会の場で全生徒が一斉にICT端末でインターネットにアクセスし、「まなびポケット」を使用するような場面では、十分な通信パフォーマンスが確保されないといった問題があるといいます。校内にいる生徒の全員が、文房具と同じ感覚で、いつでもICT端末を快適に活用できるようにするためには、この課題の解決が急がれると吉田教諭は指摘します。

 また、生徒たちのITリテラシーをいかに高めるかも、重要なテーマであるようです。

 ICT端末を文房具のように身近なツールとして生徒たちに使わせようとした場合、授業時間以外でも自由にICT端末を活用できたり、自宅への持ち帰りも柔軟に行えるようにしたりすることが大切とされています。ただし、同校では生徒たちのITリテラシーに対する不安が完全に払拭できていないという理由から、生徒によるICT端末の活用は教員による指示のもと、授業中のみに限定するという方針をとっています。同様の理由から、生徒によるICT端末の持ち帰りもオンライン学活など、特別な理由がないかぎり行わせていない状況です。

 「私たちは生徒を信頼していますが、彼らを取り巻く社会全体が中学生のITリテラシー、あるいは、彼らがICTをどう使うかについて全幅の信頼を置いているとは言い切れないのが現実です。その意味で、中学生のITリテラシーをいかに高めるか、ICTを活用するうえでの倫理観をどのように醸成していくかは、学校だけの課題ではなく、社会課題と言え、学校単位で生徒のITリテラシー向上を図ることも大切ですが、より望ましいのは、小学校・中学校の児童・生徒のITリテラシーに関して、国レベルで明確、かつ具体的な方針と教育のあり方を打ち出し、各学校に教示することではないかと感じています」(髙瀬教諭)。

【5】ICTのメリットを活かすために

 髙瀬、吉田両教諭によれば、授業でのICTの活用には「手を挙げて発言するのが苦手な子でも発言がしやすくなる」「生徒たちの意見や思いを聞き出し、とりまとめてフィードバックするプロセスが効率化される」「教室の黒板やテレビ(の画像)が生徒各人の手元にある状況が作れるため、生徒にとって授業内容が把握しやすくなる」「グループによる協働学習が行いやすくなる」といった数々のメリットがあるといいます。

 そうしたメリットを最大限に活かすためにも、教育ICTに関する専門家の知見やサポート、他校の取り組みに関する情報をより多く得たいと髙瀬教諭は指摘します。

 「授業でのICTの活用が生徒たちにとっても、先生たちにとっても有効である場合も多く、これからも活用を推進していく考えですが、その推進力をさらに高めるためには、教科ごとに、どういった教材をどう使うのが最適か、あるいは最も有効かの知見・ノウハウを校内のみならず、校外にも広く求める必要があると感じています。その意味でも、教育ICTの専門家によるコンサルテーションを受けたり、他校の成功事例を知ったりする機会をより多く得たいと願っています」