2022.02.03

研究レポート①-10:小金井市立東中学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立東中学校
大友敬三 校長

小金井市立東中学校
技術科(第1学年所属)
ICTリーダー 次世代教育推進委員
齋藤正能 教諭

小金井市立東中学校
美術科(第2学年所属)
ICTサポーター
稲村優 教諭

【1】研究・研修テーマについて

~オンライン授業の実施に向けて研修と活用をスタート~

 東中学校では、2020年6月に生徒1人1台のICT端末(Chromebook)の配備が完了しました。GIGAスクール構想の研究・研修テーマとして定めたのは「オンライン授業の実施」です。このテーマを設定した理由について、同校で次世代教育推進委員を務める齋藤正能  教諭はこう説明します。

 「このテーマ設定は、新型コロナウイルス感染症の流行といった有事への備えとして、オンラインでも授業ができる環境・体制を整えるためのものです。2020年はオンライン授業の実現に向けて必要な課題をクリアするために、持ち帰りルールや各家庭におけるWi-Fi接続環境の確認などを進めました」

 また、オンライン授業の実施と併せて「教員が『まなびポケット』を利用して生徒とメッセージが交換できるようにする」という目標を定め、全教員に対する「まなびポケット」と「スクールタクト」の活用研修も展開しました。もっとも、2020年の段階ではChromebookの活用方針が明確に定まらなかったことから、授業での「まなびポケット」の日常的な活用や、それを通じた教員と生徒とのコミュニケーションはあまり進展しなかったといいます。それでも当時の2年生、3年生については緊急事態宣言下の休校期間中にChromebookを自宅に持ち帰り「まなびポケット」を使って教員と連絡を取り合っていたといいます。

【2】4名のICTサポーターがICT活用を推進

 ICT端末を活用した授業の実施が本格的にスタートしたのは2021年4月からです。生徒は登校後にChromebookを起動して「健康観察」を入力し、机の収納スペースに入れます。その後は必要に応じて授業で利用しながら、下校前に保管庫にしまうという流れで、日常的に利用できるようにしています。

 同校の取り組みをリードしているのは、4名のGIGAスクール担当(ICTサポーター)教員です。ICTツールやインターネットを使い慣れている教員を中心に、学年ごとに1名以上ICTサポーターが在籍しており、生徒と学年担当の教員をサポートする体制をとっています。2学年のICTサポーターを担当する稲村優 教諭は、ICTの活用を広げるうえで凝らした工夫について次のように明かします。

 「スクールタクトのメッセージ機能なども、まずは自分で使ってみて、使いやすいと思うものを生徒やほかの先生に勧めるというかたちで普及を図りました。私が担当している美術の授業では、スクールタクトで生徒たちの意見を募ったり、動画をChromebookで確認したりといった使い方をしています」(稲村教諭)

 稲村教諭はまた、授業でのICT活用で心がけていることとして「必要のないものを無理に活用しない」という点を挙げます。

 「例えば、作品を作るうえでChromebookを使う必要がないなら使いませんし、インターネット上の映像・画像を見せたほうが生徒にとって効果があるならChromebookを使います。このようにICT端末を臨機応変に、文房具のように自然に使うことが大切だと思います。だからこそ、ICT端末は授業中にいつでも使える状態でなければなりませんし、先生も、生徒も必要な機能の使い方がわからないようでは困るわけです。そのため、キーボード入力や画面操作など、ICT端末や授業で使う教材の基本的な使い方については生徒の全員に覚えてもらうようにしています」(稲村教諭)

【3】ICTによる協働学習は着実に進展

 稲村教諭によれば、ICTに対する興味・関心の度合いは生徒によってさまざまであるものの、生徒たちによるデジタルツールの習得スピードは総じて速いといいます。また、入学したばかりの1年生の間ではキーボード入力のスキルにかなりの個人差が見られたものの、その差も徐々に縮まりつつあるようです。

 ICTへの興味・関心の度合いに個人差があるのは、教員についても生徒と同じであるといいます。また、従来のスタイルのほうが効率的に授業を進められるとの理由から、自分で確立した授業スタイルを取り崩し、ICTを使った新しい取り組みを行うことをためらう教員もいるようです。その中で、同校における授業でのICT活用がどういった状況にあるかについて齋藤教諭は次のように明かしてくれました。

 「授業では『コラボノートEX forまなびポケット』やスクールタクトを使って課題を出し、生徒の意見を集約して協働学習を進めるといった使い方が多く見受けられます。また、社会や理科といった視覚的な要素で学ぶ教科では、Chromebook上で画像を表示させて生徒の理解を深めています。私自身は技術を教えていますが、資料に記載されたQRコードを読み取ったり、動画を使って生徒のイメージを膨らませたりするのに活用しています」(齋藤教諭)

 なお、英語や数学の2教科については「まなびポケット」の教材ではないデジタル教科書がかねてから利用されており、その使用が継続的に行われています。

【4】中学校向けアプリケーションの充実に期待

 上記のとおり、一部の教科や協働学習におけるChromebookの活用は進展しています。同校の大友敬三 校長は、授業でのChromebookの使用についてこう説明します。

 「GIGAスクール構想を推進するうえで忘れてはならないのは『ICTがなければ授業ができないわけではない』という点です。ゆえに、授業でのICT活用の裾野を広げるために何よりも大切なのは、ICTを使うこと、あるいはChromebookの導入によっていかに便利になるかを先生たちに実感してもらうことです。それさえ実現できれば授業でのICT活用はかなりの勢いで広がっていくはずです」

 そうした勢いを生むためにも「まなびポケット」のアプリケーションの充実に期待をかけたいと大友校長はいいます。

 「例えば、中学校のカリキュラムに沿ったアプリケーションやデジタル教科書と連携し、より便利に使えるアプリケーションや、文部科学省のキャリアパスポート、都立学校スマートスクール構想に対応し、生徒のキャリアや成績をポートフォリオとして管理できるアプリケーションなど、中学校での教育に役立つ、利便性の高いアプリケーションが数多く提供されることを望んでいます。そうしたアプリケーションがあれば、大多数の先生が積極的に『まなびポケット』を使うようになるでしょう。それと併せてICT環境関連のトラブルを減らし、先生や生徒がともに安心して利用できる環境を整えることも大切です」(大友校長)

 ちなみに「まなびポケット」におけるアプリケーションの一層の充実は、稲村教諭や齋藤教諭も望んでおり、「個人の作品を記録して3年間を通じたポートフォリオを作成したり、それらを仮想的な美術館のように展示したりできるアプリケーション」(稲村教諭)や「登校できない生徒や自分で学習を進められない生徒に向けて、学習計画を立てたり勉強に前向きに取り組めるアプリケーション」(齋藤教諭)などの提供を期待しています。

【5】GIGAスクール構想のサステナビリティを高めるために

 もう1つ、GIGAスクール構想を前に進めるうえでは、より広範な地域で学習用のプラットフォームを統一するなど、地域間・学校間の格差を生まないようにすることも重要であると、稲村教諭は指摘します。

 「現在のGIGAスクール構想の取り組みでは、各学校の先生たちがそれぞれの創意工夫を独自に凝らして教材づくりや授業づくりを行っています。つまり、それができる教員がいるかいないか、あるいは何人いるかによって、各校における取り組みの進度に違いが生まれてしまっているのが実情です。ゆえに、ICT活用のスキルを持った先生が他校に異動してしまうと、学校側のICT活用のレベルが下がってしまう可能性があります。また、広範な地域の学校間で学習プラットフォームが統一されていないと、異動になった先生が自分の作ってきた教材を利用できなくなることも起こりえます。その辺りも今後解決すべき課題であるように思えます」(稲村教諭)

 こうした課題を踏まえながら、大友校長は次のように話を締めくくります。

 「GIGAスクール構想が、先生たちの属人的なスキルや努力だけで成り立っているというのは良いことではなく、そのようなことでは各校がGIGAスクール構想を持続的な取り組みにすることは難しいと言えます。したがって、当校も含めて、すべての学校に学習効果の上がるICTの使い方を教えてくれたり、全体を見ながら調整してくれたりするコーディネーターが必要だと思います。コーディネーターのサポートやアドバイスをもとに先生たちの負担を減らし、取り組みを各学校に広げていく──。そのような体制が築かれることを願っています」(大友校長)