2022.02.08

研究レポート①-12:小金井市立小金井第三小学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立小金井第三小学校
次世代教育推進委員
校内ICT活用推進委員長
立花 黎 教諭

小金井市立小金井第三小学校
研究主任
ICT活用推進副委員長
算数少人数担当
島津 智子指導 教諭

小金井市立小金井第三小学校
経営支援部主任
第5学年主任
倉林 宏樹 主任教諭

【1】研究・研修テーマについて

~主体的に考え学びの場を教師とともに創る児童の育成~

 小金井第三小学校は、小金井市立の小学校の中で最も児童数の多い学校です。2021年度の新学期を児童総数875名/全校26クラスで迎えました(クラス構成は2学年と5学年がそれぞれ5クラス、他の学年は4クラス)。

 そうした同校では、GIGAスクール構想の研究・研修テーマとして「主体的に考え、学びの場を教師とともに創る児童の育成」という大目標を掲げつつ、すべての教員が授業や校務でICTを日常的に活用するようになることを目指しています。この目標を設定した背景について、同校で次世代教育推進委員を務める立花 黎 教諭は次のように説明します。

 「新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行以前、当校では『つなぐ』をテーマに校内研究を進めており、児童と児童、児童と先生、あるいは先生同士の結びつきを強める方策として、さまざまな場面での対話を実践してきました。しかし、コロナ禍によって対面でのコミュニケーションが難しくなり、対話を通じた人と人とのつながりをどのように維持・強化していくかが課題になりました。そこで、すべての先生に日常的にICTを活用してもらい、普段の校務や授業でのコミュニケーションの活性化に役立てていきたいと考えました」

 こうした考えのもと、同校では各学年にICTサポーターを置き、学年ごとにICT活用の取り組みを広めていく方針をとっています。それと併せて、授業内容を教員間で共有するためのツールとして「まなびポケット」の「スクールタクト」を用い、研究授業の振り返りにも原則としてスクールタクトを使うよう取り決めています。

 「ICTの日常的な利用を促進するに当り、まずはすべての先生にスクールタクトの扱いに慣れてもらい、それを通じて得たことを児童に還元しながら、ICTを使った授業の品質を高めていっていただくことを目指しました」(立花教諭)

【2】自然に校内で広がるICT活用の裾野

 同校がスクールタクトの活用に本格的に乗り出したのは2020年度からです。同年度には、外部講師を招いた研修や教員同士の研修会を定期的に実施し、スクールタクトを使った課題の作り方や意見交換の方法、さらには授業の振り返り方法などを共有し、実践へとつなげていきました。この取り組みについて同校の研究主任で算数少人数担当の島津智子指導教諭はこう振り返ります。

 「例えば、算数の研究授業を実施する際には、指導案を『まなびポケット』のチャンネルに貼りつけ、教員同士で共有できるようにしました。かつては、紙のプリントで指導案を配布していましたが、そのペーパーレス化が『まなびポケット』の活用によって実現され、作業負担も軽減されたかたちです。今では研究授業の振り返りもスクールタクトを通じて先生たちと共有しています。このように、先生の誰かが『まなびポケット』やスクールタクトの便利な使い方を示すことで、ほかの先生がそれを真似て使い始め、活用法をさらに洗練させるという好循環が生まれます。当校では、その好循環が自然に出来上がり、ICTの活用が広がっていきました」

【3】スクールタクトによる協働学習で対話を活性化

 先に触れたように、同校では2021年度から主体的で対話的な学びの実現を大テーマとして掲げており、それに向けて新しい授業スタイルの確立も目指しています。この取り組みについて立花教諭は次のような説明を加えます。

 「各学年のICTサポーターが、ICTを使った新しい授業スタイルのアイデアを出して先行して実施し、その試みで得られた成果と課題に基づきながら、他の先生たちが実践するというのが通常の流れです。また、2020年度からのICT活用を通じて、実践した事例について学年間で共有したり、先生同士で教え合ったりする文化がすでに出来上がっています。そのため、ICTサポーター以外の先生が自分なりのアイデアに基づいてChromebookや『まなびポケット』を率先して使うケースもかなり増えています。ゆえに、2021年度ではChromebookや『まなびポケット』、あるいはスクールタクトの校内研修は不要と考え、一度も実施していません。ツールの使い方について学ぶ機会を設けたのは、唯一、オンライン授業に向けたWeb会議ツール(Zoom)の講習会だけです」

 この立花教諭の説明からも分かるとおり、同校ではChromebookやスクールタクトの授業での活用が着実に進んでいるほか、スクールタクト以外の『まなびポケット』のコンテンツ(アプリケーション)が教員各人の判断のもとで使われることも少なくないといいます。

 「私が受け持つ算数の授業では、スクールタクトだけでなく、GoogleスプレッドシートやGoogleスライドを使って児童たちの理解を深めています。具体的には、統計や比例・反比例を学ぶ際に、Googleスプレッドシード上に数値を打ちこんで、グラフで確認するといった使い方です。『まなびポケット』のドリル教材『eboard』などを使うこともありますが、ドリル教材については、どう授業に取り入れるべきかがまだ固まっていないので、それほど積極的に活用していません」(島津教諭)

 5学年担当の倉林 宏樹 主任教諭は、Chromebookの活用方法について以下のように語ります。

 「5学年では、スクールタクトを使ってクラスごとに担任からメッセージを送ったり、係ごとにチャンネルを作ってタイピングしながら話し合いを進めたりしています。社会の授業を例に挙げると、これまでは授業で使う写真をスクリーンに投影して、クラスの全員で見ていたのですが、いまではスクールタクトのスライドに写真を貼りつけ、児童各人が自分のChromebookで、その写真を見られるようにしています。これにより、クラスでの席順によってスクリーンに投影した写真の見えやすさが違うといった問題が解消されたと言えます。また、道徳における協働学習の時間では、児童たちによる意見の共有と、それに基づく対話の活性化にスクールタクトを活かしています。具体的には、児童1人1人が考えたことの振り返りとして、スクールタクトに意見をまとめて、みんなで閲覧するようにしています。児童は自分で気付いたことをノートに書いたり、スクールタクトに入力したりして交流し合っています。そんな児童たちの姿を見るたびに、ICTを使うメリットを実感しています」

写真①:6学年社会科でスクールタクトを活用した事例

 このほかにも、4学年からのプログラミング学習をはじめ、図工でのスケッチに使う写真の撮影(5学年)、社会科での地図記号を使った学校周辺の表現(3学年)、ミニトマトの観察(2学年)、バーチャル公園探索(2学年)など、各学年のさまざまな授業でChromebookが活用されています。

写真②:6学年道徳『ロレンゾの友達』でAIAIモンキーを活用した事例

【4】Chromebookの画面上で完結する授業を目指す

 同校では、GIGAスクール構想における研究・研修テーマとして、上述したもの以外にもいくつか設定しています。具体的には「家庭学習でのChromebookと『まなびポケット』の活用」「家庭学習でのドリル教材の活用」「デジタル教科書の活用」「不登校児童の学習支援におけるChromebookと『まなびポケット』の活用」「教員によるデジタル教材の作成」などをテーマとして掲げています。

 また今後は、『まなびポケット』を通じて提供されているスクールタクト以外のコンテンツ(アプリケーション)の積極的な活用をはじめ、「WEBQU」を使った児童の実態調査と分析、「まなびポケット学力調査CBT」によるICT活用の効果検証なども進めていく予定です。

 もっとも、これらの取り組みも含めて、GIGAスクール構想を前に進めていくうえでは、解決すべき課題もいくつか残されていると倉林教諭は指摘し、こう続けます。

 「どの児童もICTリテラシーやICTスキルをもう少し高める必要があると感じています。先生についても同様に、ICTを日常の業務や授業でより効果的に活用するためのスキルアップと実践のさらなる積み重ねが必要であると思います。これらの課題を解決するための一手として、今日では職員会議の議題や資料を『まなびポケット』やスクールタクトで共有する試みも始めています。さらに、公開授業や研究授業では、可能な限りICTを使った授業を見る機会を増やしていこうとしています」

 加えて今後は、上記のテーマにもあるChromebookの持ち帰りによる家庭学習やオンライン授業の実践にも力を注ぐとしています。この取り組みでは、遠隔にいる児童と教員との間で、双方向のやり取りがスムーズにできるようにすることを目標として挙げています。また、Chromebookの画面内ですべてが完結する授業を展開し、児童が紙のノートかPCのどちらを選んだとしても問題なく学習が進められるようにすることが理想であると、倉林教諭は指摘します。

 こうした今後の展開を踏まえつつ、立花教諭は次のように同校におけるこれまでの取り組みの成果について述べ、話を締めくくります。

 「GIGAスクール構想に則ったICT活用の取り組みを進める中で、数多くの教育用アプリケーションに触れ、授業での活かし方を考えて実践し、効果を確認するという貴重な機会を得ることができました。その学習プロセスの中で、先生たちの間で互いにアイデアを出し合ったり、実践の結果を報告し合ったり、コンテンツの活用法を教え合ったりする文化も醸成されたように感じています。これまでの取り組みを通じて学んだこと、そして育まれた文化を、児童の主体的な学び、あるいは学びの高度化にフルに活かしていきたいと考えています」