2022.02.15

研究レポート①-13:小金井市立小金井第四小学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立小金井第四小学校
ICTリーダー(日常活用推進)
3学年学級担任
小林 真子 教諭

小金井市立小金井第四小学校
音楽専科
押阪 絢子 教諭

小金井市立小金井第四小学校
4学年学級担任
渡邊 健二 教諭

【1】研究・研修テーマについて

〜 充実した学習活動のためのChromebook活用の推進 〜

 小金井第四小学校では「充実した学習活動のためのChromebook活用の推進」を研究・研修テーマとして掲げており、その実現に向けて下記の2つの取り組みを重点的に推進しています。
①学年の発達段階に沿った適切な時間設定と、日常的な活用に向けたカリキュラムの構成・実行
②コミュニケーションツールを活用した話し合いや交流、情報ならびに意見交換の充実

 これらの研究・研修テーマを設定した理由について、4学年学級担任の渡邊 健二 教諭は以下のように説明します。

 「授業でのICT活用を推進していくうえで大切な1つは、ICTスキルを一定水準以上に引き上げることです。例えば、当校の場合、ローマ字を学ぶ3年生からタイピングの学習を始めますが、4年生になった段階で児童たちのタイピングスキルに大きなバラツキがあると、4学年にふさわしい授業が思うように展開できなくなる可能性があります。ゆえに、児童の発達段階に合わせたカリキュラムを組みながら、ICTの日常的な活用を推し進め、児童たちのICTスキルの平準化を図りたいと考えました。また、ICTによるコミュニケーションの充実は、その取り組みを前提にしたテーマ設定と言えます」

 同校の場合、Chromebookは2020年度から徐々に配備されていましたが、児童全員分と全教員用のChromebookの配備が完了したのは2021年12月のことです。そのため、2021年度以降においても、Chromebookの活用頻度が相対的に低い1年生はChromebookをクラス間でシェアして活用してきたといいます。ただし、その他の学年については児童1人に1台のChromebookを使いながら、「まなびポケット」の本格活用を2021年4月からスタートしています。現在は、ICTの活用に積極的な教員が中心となり、校内でのChromebookの活用を広げている状況です。

 Chromebookは各クラスに配備された保管庫で管理されており、授業ごとに保管庫から取り出して使うというスタイルを基本に活用を進めています。ただし、Chromebookの使い方は学年やクラスごとに異なり、ローマ字やタイピングに慣れてもらいたい、あるいは、授業で学んだことを活かして自由に学習に取り組んでもらいたいとの意図から、授業中に限らず休み時間にもChromebookの使用を許可しているクラスもあります。こうしたクラスでは、例えば、社会の授業でGoogleストリートビューを活用したのちに、様々な場所を児童たちが自主的に調べるといったことがよくあるようです。

【2】スクールタクトを中心に多様なアプリを活用

 同校では、ICTによるコミュニケーションの充実という研究・研修テーマに沿ったかたちで「まなびポケット」のコンテンツ(アプリケーション)の活用が進んでいます。その点に関して、3学年の学級担任である小林 真子 教諭は以下のように話します。

 「私のクラスでは、『まなびポケット』のアプリケーションである『スクールタクト』や『コラボノートEX』を協働学習によく使っています。これらのアプリケーションを使って協働学習を進めながら、ICTを通じた話し合いの場や交流の場面をつくろうと取り組んでいます」

 「まなびポケット」については協働学習、あるいはコミュニケーションの充実以外の用途でも多種多様に活用されているようです。音楽専科の押阪 絢子 教諭は、音楽の授業での「まなびポケット」の活用例についてこう明かします。

 「児童たちが音楽を楽しみながら学べるように、ピアノの鍵盤と音とを連動させた動画をGoogleドライブで共有しています。この動画は授業で使うものですが、授業で使ったのちには児童たちの共有フォルダにファイルを入れておき、好きなときに動画を見直してリズムをつかんだり、自分のペースで指の動きを覚えたりできるようにしています」

写真説明:リコーダーの練習の際、楽譜をChromebookから閲覧する様子

 押阪教諭は、音楽鑑賞の時間や調べ学習の際にもスクールタクトを活用しており、児童たちはスクールタクトを通じて鑑賞した音楽についての意見交換を行ったり、調べた結果をプレゼンテーション資料にまとめて発表したりしているといいます。加えて『AIAIモンキー』を使って、クラス全員の意見の傾向を直感的にとらえられるようにもしています。

写真説明:鑑賞した音楽についてスクールタクトを用いた意見交換

写真説明:AIAIモンキーを使用して児童の感想を収集

【3】「まなびポケット」の活用を巡るメリットと課題

 同校では、国語や社会などの教科でもスクールタクトやコラボノートEXの活用が進んでいます。

 「国語と社会の授業では、班に分かれて『新聞』を作るという協働学習があるのですが、かつては大きな模造紙を使って新聞を作っていました。この場合、例えば、各班の中で文章を作るのが上手な児童が文章を考え、字のきれいな児童がひたすら文字を書き写すなど、新聞づくりに参加する、あるいは参加できるメンバーが固定化していました。それが、コラボノートEXを使うと、児童1人1人が意見を述べやすくなり、自分が書いた文章を自分で動かしてレイアウトできます。困っている友達がいるのを見て、自発的に助けにいく児童も増え始め、模造紙を使っていたころに比べて協働学習が格段にやりやすくなったと感じています」(渡邊教諭)

写真説明:コラボノートEXを活用した新聞作成(4年)

 

 一方、小林教諭はスクールタクトの活用によって、児童の学習の様子が見えやすくなったと評価します。

 「スクールタクトは児童が入力している文字をリアルタイムに確認できるので、課題に対して児童1人1人がどのような状況にあるのかがつぶさに把握できます。例えば、算数の問題への答えを入力してもらうと、児童がどこで悩んでいるかがすぐに分かるので、声をかけやすくなりました」

 小林教諭は、「まなびポケット」のドリル教材も便利に活用していると言います。

 「従来、紙のプリントを配って学習していた時間に、プリントと併用してドリル教材の『navima』を活用しています。児童によって学習の進度は異なり、例えば、先生から与えられた算数の課題をすぐに終えてしまい、次の課題に取り掛かりたい児童がいる一方で、ゆっくりと自分のペースで課題に取り組みたい児童もいます。『まなびポケット』のドリル教材を活用すると、そうした1人1人の学びのペースや進度に合わせた授業が容易に行えるようになります。加えて『navima』には、単元を終えるたびにメダルが溜まっていくゲームのような仕掛けもあり、児童たちは楽しそうにドリルの問題に取り組んでいます」(小林教諭)

 こうしたドリル教材の活用には、学習の個別化のために紙のプリントを用意する手間が減らせる、あるいは不要とすることができるという点で、教員側にもメリットがあると小林教諭は指摘します。その言葉を受けたかたちで、渡邉教諭はICT活用がもたらす教員側の利点についてこうまとめます。

 「ICTを授業で使うと児童たちの学ぶ意欲が総じてアップするので、それだけでも先生にとってメリットの大きなことですが、ICTの活用で先生の仕事が効率化される効果も大きいと感じています。例えば『Googleフォーム』のようなツールを使うと、教員や児童を対象にしたアンケートが簡単に行えますし、アンケート結果の集計も自動化されます。こうした効率化によって先生たちの仕事の負荷はかなり低減されるはずです」(渡邊教諭)

写真説明:Googleフォームを用いたアンケート配布

 もっとも「まなびポケット」のアプリケーションの機能に関しては、課題に感じている部分もあるようです。その1つとして小林教諭が挙げるのは、児童から見えるアプリケーションの画面と教員から見える画面が違う場合が多いことです。

 「先生用と児童用の画面設計が違うことで、指導時にタイムロスが発生することが間々あります。どのアプリケーションでも、先生用の画面を児童用の画面に素早く切り替えられたり、先生の画面を児童に見せたりできれば、より便利になると感じています」(小林教諭)

【4】教員同士の教え合いと情報共有でICT活用の輪を広げる

 同校では、ICT活用の全校的な定着を図る目的で2021年4月に「Google Meet」と「まなびポケット」「Googleフォーム」の3つを、6月に「Jamboard」を、そして9月に「Googleドキュメント」「Googleスプレッドシート」「Googleスライド」の活用方法を共有するという研修計画を2021年の年初に立て、計画どおりに実施してきました。

 また、教員同士が自主的に活用方法を教え合い、ICT活用の裾野を広げています。さらに、各学年に1人ずつ設置しているICTサポーターがICT活用をリードしているほか、ICTサポーターによるサポートや情報提供を受け身で待つのではなく、能動的にICT活用に関する情報を集めたり、疑問をICTサポーターに投じたりする教員も多いといいます。結果として、教員の間でICT活用に関する情報共有が自然なかたちで進んでいると、渡邊教諭は指摘し、こうも続けます。

 「研修や事例を通じて学んだことを、そのまま授業に取り入れても、うまくいかないことが往々にしてあります。大切なのは、授業を進める中で『この部分にICTを適用してみたい』、あるいは『ICTを使えば授業の効率と効果をもっと上げられるのではないか』と感じることであり、そう感じたときにICTをどう使うかを具体的にイメージできるかどうかだと思います。それには授業でのICT活用方法に関する知識を日頃から蓄えておくことが必要で、そこに情報共有の意味があると考えます。そうした情報共有が、先生同士の普段の会話を通じて行われ、ICTが日常的に使うツールへと変化していくことを望んでいます」

写真説明:先生同士による研修会の実施風景

 同校でのICT活用は着実に進展しているものの、授業でのICTの使用頻度はクラスによってまだバラツキがあるといいます。その解消に向けて教員同士の情報共有を後押ししながら、より明確な計画の策定やカリキュラムの作成にも取り組みたいと押阪教諭は語ります。

 「当校では全教員にICT活用を強制しているわけではありません。ゆえに、クラスによってICTの使用頻度に相応のバラツキが出るのは仕方のないことと言えます。また、児童たちのChromebookの使い方も、授業で使うたびに保管庫から取り出し、その授業が終わったら保管庫に戻すというスタイルが基本ルールになっており、紙のノートや鉛筆のように常に自分のそばにあるツールにはなっていません。今後は、こうしたルールの見直しを含めて、ICTを児童や先生たちにとってもっと身近なツールにするための取り組みに注力しながら、児童のためにより良いカリキュラムを練り上げ、全学年、全クラスに浸透させていく考えです」(押阪教諭)