2021.10.18

研究レポート①-3:小金井市立緑小学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立緑小学校
研究主任
横田德広 主任教諭

小金井市立緑小学校
ICT主任
中嶋元啓 教諭

【1】研究・研修テーマについて

~ICTをツールとして活用して主体的・対話的で深い学びを実現する~

 緑小学校において児童1人に1台の「Chromebook」の導入が完了したのは、2020年度3学期のことです。それを機にGIGAスクール構想の研究・研修テーマとして「主体的・対話的で深い学び」の実現を掲げ、そのための取り組みを2021年度新学期から本格にスタート、個別学習や協働学習へのICTの活用を推し進めています。

 この取り組みの当面の目標について、6年生の担任で研究主任である横田德広主任教諭は次のように語ってくれました。

 「ChromebookなどのICTを学習ツールとして使うことで、自分の欲しい情報をインターネットで検索したり、友達同士で学習したことを交換したりしながら、学びを深めていくことが容易になります。こうしたICTの利点を活かしながら、高学年では自然に『課題の発見・解決、情報共有』ができるようになることを目指しており、低学年・中学年では、タイピングソフトなどのアプリケーションに触れ、端末の操作に慣れてもらうことを目標としています」(横田主任教諭)。

【2】低学年からChromebookの普段使いを推進

 緑小学校は各学年3〜4クラスで構成されており、全校児童に対して校内でのChromebookの活用を奨励し、担任の休み時間中でのChromebookの使用も許可しています。狙いは、Chromebookを学習と遊びの双方で使ってもらうことでICTスキルを早期に向上してもらうことにあります。そして授業には、主として「まなびポケット」の「スクールタクト」が使われています。

 「スクールタクトは子どもたちのノート代わりに使っています。こうすることで、授業中に子どもたちの回答を確認するのが簡単になりますし、子どもたちも友達の回答を互いに閲覧しながら、チャットでコメントを送れるので協働学習が進めやすくなります。また、チャットを使うと挙手が苦手な子でも自分の考えを積極的に発言するようになることが多くあります」(横田主任教諭)。

 もちろん、チャットで自分の考えを自由に述べるには一定のタイピングスキルが必要です。そのため、低学年のうちからタイピングに慣れてもらうことにも力を入れていると横田主任教諭は付け加えます。

【3】子どもたちのアイデアを授業に取り込む

 5年生の担任でICT主任の中嶋元啓教諭によれば、子どもたちのICT習得のスピードは想像以上に速く、特に高学年の子どもたちの場合、スクールタクトを難なく使いこなしているほか、独自に工夫を凝らしてマニュアルにない使い方をしていることも多いといいます。また、教員が子どもたちの使い方からヒントを得て授業に取り入れることもあると中嶋教諭は明かします。

 「例えば、ある先生はスライドを使ったクイズ形式の教材を作り、子どもたちと楽しみながら授業を進めていましたが、そのアイデアは子どもたちの遊びから得たものです」(中嶋教諭)。

 また、6年生の授業ではChromebookの画面を分割し、1つの画面で「NHK for School」などのビデオを視聴しながら、他の画面を通じて教員と子どもたちがやり取りするといったことがよく行われているようです。こうした使い方も子どもたちのアイデアにもとづくものであるようです。

【4】スクールタクトのテンプレートを活用し、教員間のノウハウ共有を日常化

 緑小学校では国語、社会科、理科などほとんどの授業でChromebookが使われています。ICT活用の推進体制としては、学年ごとにICTリーダーの教員が任命され、そのリーダーが中心となりながら、授業でのICTの活用法や活用のアイデアを教員間で共有する取り組みが進んでいます。

 「例えば、当校の場合、スクールタクトを使って作成したテンプレートを公開し、スクールタクトの機能を使って他の教員が自由に閲覧・再利用できるようにしています。テンプレートの作成・公開には特別なルールは設けておらず、自分で『これは授業で使えそうだ』と思えば、教材を気軽にテンプレート化して公開し、みんなで共有するスタイルをとっています。当校の先生たちはみな授業でのICT活用に積極的ですので、こうしたスタイルの情報共有が有効に機能しているのかもしれません」(横田主任教諭)。

 このような情報共有の校内に定着した背景には、緊急事態宣言による休校期間中に、全学年の教員がスクールタクトの使い方などについて積極的に情報を交換し始めたことがあります。これにより、2021年度1学期の段階で同校のすべての教員がスクールタクトのテンプレートを作成できる状態になったと中嶋教諭は明かし、こう続けます。

 「いまではテンプレートの共有だけではなく、定期的に校内公開の授業も行い、先生たちがICTを授業でどう使っているかを周知しています。授業の公開時には職員室に時間と教科を掲示して、どの先生でも自由に出入りできるようにしています。『ICTを使えば、授業で試したい大抵のことは実現できる』と考える先生も多くいます」

 さらに、緑小学校に新たに赴任した教員も、ICT活用に対する教員たちの積極性に感化され、誰もが授業でのICTの使用に積極的になるようです。

【5】スクールタクト

 緑小学校では、子どもたちをICTに慣れさせる取り組みの一環として夏休み中の「Chromebookの持ち帰り」を実施しました。方式は、持ち帰りを希望した児童の家庭にChromebookを貸し出すというものです。貸し出しの対象は1年生を除く全児童で全体の3分の1が持ち帰りを希望・実施したようです。また、夏休みでのChromebookの持ち帰り後に自宅からうまく「まなびポケット」にアクセスできないといった事態が起こらぬよう、夏休み前の土日を使い、持ち帰りを希望した児童たちに自宅でのChromebookの接続確認も行わせています。

 また、緑小学校に導入されているGIGAスクール構想のICT環境は「ビデオ会議用アプリの接続状況が悪い」「リモートからの個別指導がしにくい」といった課題がある、と横田主任教諭は指摘します。

 「例えば、以前のパソコン教室で使っていた教育システムは、先生が授業中に児童各人の端末をリモートから操作して学習をサポートすることができました。ところが、スクールタクトではそれが行えません。教室での授業であれば、子どもたちの席に行き、困っている子どもたちを助けることが可能ですが、リモート授業ではそれが行えません。そのため、リモート授業の実施に向けては、スクールタクト以外の仕組みの活用を検討しなければならないと感じています。また併せて、スクールタクトの機能強化によって児童の端末の個別的なリモート操作が可能になることも望んでいます」(横田主任教諭)。

【6】ICT活用を巡る今後の期待と課題

 リモート授業の実施を巡って課題があるとはいえ、横田主任教諭、中嶋教諭はともに、今回のGIGAスクール構想環境の整備により、子どもたちに対する個別学習の幅は確実に広がっていると指摘しています。

 「児童1人1台端末のGIGAスクール構想のICT環境は、子どもたちが教科書や資料集、動画などから必要な情報を繰り返し見たり、自分のペースに合わせて引き出したりして学習できるという大きな利点があります。また、資料を共有しながら授業を進める際も資料におけるフォーカスポイントを子どもたち1人1人の興味・関心や学習の進捗に合わせて変化させることができます。このような学びの個別化は、アナログの黒板と資料を使った授業では成しえなかったことで、GIGAスクール構想のICT環境が整備されたゆえの効果だと感じています」(中嶋教諭)。

 また、GIGAスクール構想のICT環境は、教員の仕事の効率化にも有効であるようです。

 「GIGAスクール構想のICT環境が整備されたことで、子どもたちが授業で使ったプリントやノートを回収して評価・点検して戻すといった作業をすべてオンラインで完結できるようになりました。それによる働く時間の大きな短縮効果は、私を含む先生の多くが実感できていると言えます」(中嶋教諭)。

 一方、今後はリモート授業やリモート学習など、新しい学びのスタイルの確立に向けて、どのような対応が必要か検討しなければならないと横田主任教諭は指摘します。

 「ICT環境の整備だけでリモート授業・リモート学習が適切に行えるわけではなく、子どもたちに対する情報倫理の一層の啓発も必要ですし、家庭と連携しながら子どもたちの自宅での学びをどうサポートしていくかも、さまざまに検討していく必要もあるでしょう。学習ツールとしてのICTはこれからもハイペースで進化していくはずです。それを見据えながら、次にどのような方向へとICT活用の歩を進めるかは今後の課題です」(横田主任教諭)。