2022.02.08

研究レポート①-11:小金井市立緑中学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立緑中学校
数学科(第3学年所属)
次世代教育推進委員
兼 ICTリーダー(日常活用推進)
鶴淵正行 教諭

【1】研究・研修テーマについて

〜 「まなびポケット」を通した授業改善と学力向上を推進 〜

 緑中学校では2021年9月に生徒1人1台のICT端末(Chromebook)の配備が完了し、GIGAスクール構想の実証を展開できる環境が整いました。

 同校におけるChromebookの配備は2020年から始まっていましたが、2021年度における1年生の生徒数が前年度比で大きく増え、クラス数も5クラスから6クラスになりました。結果として、1年生全員分のChromebookを用意するのに相当の期間を要することになり、2021年9月での配備完了となったようです。ちなみに、2021年度の同校は1年生が6クラス、2〜3年生がそれぞれ5クラスの合計16クラスで構成され、小金井市内の公立中学校の中で最も生徒数が多い学校となっています。

 そうした同校ではGIGAスクール構想における研究・研修テーマとして「まなびポケット」を通した授業改善と学力向上を掲げています。このテーマ設定について、同校のICTリーダーと次世代教育推進委員を兼務する鶴淵正行 教諭(数学科)は次のような説明を加えます。

 「社会の変化を受けて、教育現場でも生徒各自がパソコンやタブレットなどのICT端末を活用する能力を身につけることが求められています。そこで当校でも、小金井市内の公立小中学校で共通して使われている『まなびポケット』とChromebookの活用を通じて、授業の効率化と生徒の学力向上を目指すことにしたのです」(鶴淵 教諭)

 現時点(2021年11月時点)では、取り組みの本格始動から間もないこともあり、どのように研究を進めていくかを手探りで試している段階にあるといいます。

 それでも2021年9月以降は「まなびポケット」で提供されている「スクールタクト」をはじめ、「eboard」「プログラミング先生 for まなびポケット」「辞書アプリDONGRI ポケット版」などの授業での試験的な活用が進められています。また、「Google Classroom」といったGoogleのツールも使用されており、同ツールは主として生徒による課題の提出や教員と生徒との連絡などに用いられています。

【2】スクールタクトを活用し、意見の集約やディスカッションを実施

 「まなびポケット」の現状の活用シーンとしては、クラスの意見を取りまとめる協働学習での使用が多いと鶴淵 教諭は指摘します。具体的には、社会や道徳、総合の時間において生徒各人の考えをクラス全員で共有しながら、意見をとりまとめていくといったスクールタクトの使い方が全校的に広がりつつあるようです。

 「2〜3年生は1人1台のChromebookの配備が1年生に先行するかたちで行われていたことから、協働学習でのChromebookの活用も進んでいます。とりわけ、3年生については道徳の授業におけるChromebookの使用が活発になり、スクールタクトを利用してクラス全員の意見をまとめるスタイルが定着しつつあります」(鶴淵 教諭)

 また、3年生の総合の授業では、新型コロナウイルス感染症の影響によって中止になった修学旅行を想定した調べ学習がChromebookを使って行われました。

 この授業は5〜6人で班をつくり、班ごとに修学旅行で訪問するはずだった名所・旧跡・施設の情報をインターネットで調べ上げてプレゼンテーション資料にまとめて発表するというものです。班ごとに12枚のスライドから成るプレゼンテーション資料を「Googleスライド」を使って作るという条件のもと、1人あたり約2枚のスライドを作成したといいます。

 「生徒たちは、文字だけでなく映像や音声を使い、それぞれ個性のあるスライドを作成していました。各班の発表後には、デジタルホワイトボードの『Google Jamboard』を使って、それぞれの発表の良かった点や改善点をまとめるといった協働学習も行っています」(鶴淵 教諭)

【3】最大の課題はICTを使うメリットの訴求

 以上のように、道徳や総合でのChromebookや「まなびポケット」、あるいはGoogleのツールの活用は進展を見せています。ただし、道徳と総合以外の授業に関しては、これらのデジタルツールの活用率は総じて高くなく、かつ教科ごとの活用率に差があるようです。その背景要因について、鶴淵 教諭は次のように説明します。

 「私の担当教科は数学ですが、数学の授業においてスクールタクトを含む『まなびポケット』のアプリケーションを使うことは基本的にありません。例えば、スクールタクトは協働学習に適したツールですが、数学のように正解のある問題を1人1人が解いていくタイプの科目では使いどころがかなり狭められます。また、「まなびポケット」には数学学習用のアプリケーションも用意されていますが、それを使用しないと授業が成り立たないわけではありません。そのため、いまは自分の担当する授業の効率性や効果を高めるために、どのアプリケーションをどう使うのが適切なのかを見定めている状況にあり、他の多くの先生も私と同じような試行錯誤の段階にあると言えます」(鶴淵 教諭)

 このような状況を打開するうえで大切なのは、より多くの教員がChromebookや「まなびポケット」を使うメリットを実感として持つことであると、鶴淵 教諭は訴えます。

 「中学校で生徒が学ぶ期間は3年間と短く、先生たちは生徒がより効率的に、かつ効果的に学習できる手段を突き詰めていかなければなりません。そのため、授業で使うメリットが実感できなければ、先生たちはChromebookや「まなびポケット」などのICTを使おうとしませんし、逆にメリットが実感できれば率先して使うようになるはずです。ゆえに、先生たちにICTの活用メリットを明確に伝えることが、GIGAスクール構想を前に進めるうえでは何よりも大切であると感じています。また、メリットを伝える際には、ICTの活用によって、これまで不可能だった授業が可能になり、それによって学習の効率・効果が大きくアップすることを訴求しなければならないと考えています」(鶴淵 教諭)

【4】ICTの活用メリットを高めるうえでの要点

 鶴淵 教諭によれば、教員にICTのメリットを実感してもらううえでは、環境の整備も重要なポイントになるといいます。例えば、「まなびポケット」に関して言えば、教員にとっての使い勝手を増すことが求められると鶴淵 教諭は指摘します。

 「「まなびポケット」ではさまざまな用途のアプリケーションが提供されていますが、それぞれの授業での活用法が実際に使ってみるまでよく分からないという難点があります。スクールタクトにしても、数式を扱う機能があるようですが、使用を重ねないと、その機能の存在になかなか気づけません。ですので、少なくともアプリケーションのカテゴリーとして「ドリル教材」「協働学習用」「指導者向け」といった現場での利用に即した分類が欲しいところです。それがあれば、先生たちにとっての使い勝手は増すはずです」

 また、「まなびポケット」のアプリケーションがそれぞれ独立しており、相互に連携できない点も先生たちが不便を感じる点であると鶴淵 教諭は言います。

 「例えば、eboardのようなドリル教材の内容を必要に応じて編集してスクールタクトで配信したり、ドリル教材での採点結果をスクールタクトでクラスごとに集計したりすることができれば非常に便利なのですが、現状ではそれができません。この辺りが相互連携されると、ICTの活用を便利だと感じる先生が増えていくと思います」(鶴淵 教諭)

 さらに、校内のネットワーク環境(Wi-Fi環境)についても整備を進める必要があると鶴淵 教諭は明かします。

 「現時点では、当校におけるWi-Fi環境の整備が不十分で、授業中にChromebookが使用できなくなったり、接続が不安定になったりする教室がいくつか残されています。こうした状況が改善されない限り、Chromebookや「まなびポケット」を授業で活用しようという先生たちの意欲は高まりません。その意味でも、校内におけるWi-Fi環境の整備はGIGAスクール構想を前に進めるための喫緊の課題であると言い切れます」(鶴淵 教諭)

【5】推進体制の強化に向けて外部アドバイザーによる支援も望む

 緑中学校では現在、次世代教育推進委員とICTリーダーを兼務する鶴淵 教諭のほか6名の教諭がICTサポーターの役割を担い、GIGAスクール構想を推進しています。この7名の今後における活動方針について鶴淵 教諭は次のように説明します。

 「当校にとってまず必要なのは、ICTに対する先生たちの理解を深めてもらうことです。そのための一手として、ICTサポーターが入手したICTの活用手法やアプリケーションの情報を可能な限りすみやかに伝搬し、より多くの先生たちにICTの利便性を実感してもらおうとしています。それに加えて、Chromebookの利便性にいち早く気づき、授業での活用に率先して取り組む先生たちの協力を仰ぎながら、ICTの有効な活用方法を校内で広く共有するための体制づくり、仕組みづくりも進めています」

 さらに、GIGAスクール構想を推し進めるうえでは、校内の人的リソースだけに頼るのではなく、外部の力を有効に活用することも欠かせないようです。

 「中学校の先生たちは担当教科の専門家ですが、教育ICTの専門家ではありません。したがって、先生たちの力だけでICTを授業にフルに生かすための手法を確立するのは難しく、それには専門的な知識・知見を持った外部のアドバイザーの支援が不可欠です」(鶴淵 教諭)

 こうした考え方のもと、同校ではGIGAスクール構想にかかわる2022年度以降の計画として、「デジタル教科書/デジタル教材の活用率の向上」や「利便性の高いアプリケーションの精選」といった目標を掲げつつ、その目標を達成する一手として、外部人材の積極的な活用も検討しています。加えて今後は、他校との情報・知見の交換・共有も積極的に図りたいと鶴淵 教諭は述べ、話をこうまとめます。

 「GIGAスクール構想の推進は単一の学校内で閉じた取り組みではなく、日本のすべての小中学校が一体となって取り組むべきテーマであるはずです。であるならば、学校を跨いだ教員間の情報・知見の交換・共有が必須になるでしょう。そうした情報・知見の交換、共有を効率的に、かつ効果的に行える場が創出されることを期待しています」(鶴淵 教諭)