2022.03.10

研究レポート①-14:小金井市立前原小学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立前原小学校
次世代教育推進委員
ICTサポーター(6年)
東川 琢真 教諭

小金井市立前原小学校
ICTサポーター(5年)
横手 南海 教諭

【1】研究・研修テーマについて

〜 ICT活用で主体的に学び、考えを伝え合い深め合う力を育む 〜

 前原小学校は、総務省の「次世代学校ICT環境の整備に向けた実証」にモデル校として参加するなど、教育ICT環境の整備を先行して進めてきました。国内公立学校としては初めてフルクラウド環境/フルリモートでの教育を実践した背景もあり、2021年度の6年生が2年生だったときにはすでにタブレットを用いたプログラミング教育を始動させています。そのため、同校の場合、数年前の時点ですでに(端末の機種は統一されていなかったものの)児童1人に1台ICT端末が配備されていました。Chromebookや「まなびポケット」に関しても早くから導入され、現在(2021年12月時点)までの使用経験はおよそ5年に及びます。

 そうした同校では2021年度における研究・研修テーマとして「効果的なICT機器の活用実践」を掲げ、その主目的として「主体的に学び、考えを伝え合い、深め合うことのできる児童の育成」というゴールを設定しています。このテーマ設定に関して、同校の次世代教育推進委員で6学年のICTサポーターでもある東川 琢真 教諭は次のように説明します。

 「当校ではICTを学びに活かす取り組みの一環として、児童へのアンケートを適宜実施しています。そのアンケートを2020年度末に実施したところ、クラスの友達ともっと関わりたいと願っている児童が非常に多いことがわかりました。背景には、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行によって、友達と一緒に遊んだり、対面でコミュニケーションをとったりする機会の多くが失われたことがあります。そこで2021年度のテーマとして、児童たちが主体的に学び、考えを伝え合い、互いに深め合う力を育むという目標を設定しました。また、このテーマを通じてChromebookの活用を推し進めることは、児童が個人の意見を発信するためにICT端末をどう使うべきかを深く知る機会にもなると考えました」

 こうしたテーマ設定のもと、同校では現在、「全校児童による日常的なChromebook活用の促進」「『スクールタクト』を用いた児童による話合い活動のレベルアップ」「全校児童のICT活用スキル/ITリテラシーの向上」「教員におけるChromebook活用力の向上」といった取り組みに力を注いでいます。

【2】スクールタクトの活用を日々の教員の業務へ取り入れる

 同校では2021年度からICT委員会を正式に発足し、同委員会を中心に教員向けの研修を展開しています。2021年度は2021年5月と9月、翌年1月にそれぞれChromebookの授業での活用法を学ぶ研修会を、また、2021年6月と10月、そして翌年2月にはChromebookを使った研究授業を展開する計画を立てていました。

 「これらの研修会の目的は、ICTを使った学びの個別最適化を通じて『主体的・対話的で深い学び』や、児童間における情報共有から発展した『協働的な学び』をChromebookの活用で実現する方法を研究するというものです」と、5学年の学級担当教諭でICTサポーターの横手 南海 教諭は説明します。

 また、2021年度1学期における研修では、同校に新しく着任し、Chromebookや「まなびポケット」を初めて扱うことになった教員を主な対象にしたカリキュラムも組まれました。この研修ではChromebookや「まなびポケット」の基本的な操作法やGIGAスクール構想に対する同校の方針が紹介されたといいます。また、「まなびポケット」で提供されている各種コンテンツ(アプリケーション)について、ジャンルごとに分け、それぞれの機能説明も展開されたようです。

 同校では、全教員に「まなびポケット」のコンテンツに慣れ親しんでもらう目的で、職員会議や教員同士のやり取りにも「スクールタクト」を使用しています。

 「先生たちの日常的な仕事の中にスクールタクトを取り込むことで、このツールを身近に感じてもらえるようになります。そのうえで、『スクールタクト』や『navima』、『EnglishCentral』『ポプラディアネット』『デキタス』『DONGRI』など、利便性の高い『まなびポケット』のコンテンツの機能や授業での活用方法を具体的に伝え、先生たちの積極的な活用を促すようにしています」(横手教諭)

 さらに、横手教諭によれば、授業の中でどのアプリケーションをどう使っているかを同学年の教員同士で教え合うことも多いほか、教員の多くが「まなびポケット」を以前から使用しているために、各人が自分の授業スタイルに合ったものを選び、活用しているケースも少なくないといいます。

 このほか、各学期に1回の頻度で行われる校内研究全体会ではChromebookの活用実践報告会も催されています。この報告会では、前原小学校におけるICT活用の現状やICT活用の方針に則ったChromebookの使い方を具体的に、かつ包括的に捉えることができます。そのため、授業における自分のChromebookの使い方に不安を感じていたとしても、報告会を通じて解消することができると横手教諭は説明を加えます。

【3】世間話のようにICTの活用法を教え合う

 以上のように、前原小学校では授業でのICT活用に意欲的に取り組み、教員の多くがそれぞれのアイデアを活かしながら「主体的・対話的で深い学び」、あるいは「協働的な学び」のためのICT活用を推し進めています。その取り組みの具体例として、横手教諭は自身のクラス(5学年)での「まなびポケット」活用例をいくつか教えてくれました。

 「例えば、国語の授業で俳句をつくるときに、スクールタクトなどでクラス全員の作品を共有して『いいね』をし合ったり、算数の授業で三角形の面積をどのように求めるかを共有し合ったりしています。スクールタクトを使うと、児童が自分の考えを書き込み、すぐにクラス全員と考えを共有することができるので、協働学習がとても効率的になります」(横手教諭)

写真①:6学年国語「詩を楽しもう」の学習でスクールタクトを活用した事例

写真②:6学年国語「詩を楽しもう」の学習でスクールタクトを活用した意見交換の事例

 

 また、道徳の授業でも、スクールタクトで課題を配布し、スクールタクト上で児童の考えを書いてもらうといった使い方をしています。

 「クラスの中には、人前で発言するのが苦手で、発言によって自信をつけ、また発言をするという好循環を作れない子がいます。スクールタクトのような協働学習ツールを使うと、そうした児童でも精神的な重圧をそれほど感じずに自分の意見やコメントが出せるようになり、それを友達に見てもらうことで徐々に自信をつけ、より積極的に意見、コメントを出すようになります。このICT活用の効果は、主体的で対話的な学びを推進するうえで、とても有益であると感じます」(東川教諭)

 横手教諭によると、こうしたアプリケーション活用のヒントは、同校の教員1人1人がそれぞれ考案して持ち寄っているといいます。それらを、より多くの教員と共有することで、ICT活用のレベルアップ、あるいは「まなびポケット」活用率の全校的な向上が図られつつあると横手教諭は話します。

 「多くの先生たちと活用のアイデアを共有すると言っても、ICT委員会の主導によって先生全員によるアイデア共有の場を頻繁に設けているわけではありません。周囲にいる先生との日常的な会話の中で、アプリケーションの使い方を教え合っているといったイメージです。現状は、そうした対話を通じて共有化されたアイデアの中から、例えば、各学年や学科、あるいは学年を跨(また)いだかたちで有効活用できそうなものを選び、全校で共有化する試みを進めている段階です」(横手教諭)

 もっとも、教員にはそれぞれ独自の教え方のスタイルがあり、ある教員が成果を上げたICTの使い方が、すべての教員に有効であるとは限りません。ゆえに、他者による成功事例を入手できたとしても、自分の授業スタイルや児童たちに本当にフィットするかどうかを見定めたうえで実践を重ねて自分なりのスタイルを確立していくことが重要になると東川教諭と横手教諭は感じています。

【4】重要なのはICTのさらなる有効活用に向けたスキルアップと実践の積み重ね

 前原小学校では2021年度の冬期休暇においてChromebookの持ち帰り学習を実施しました。対象は全校児童です。算数ドリルのアプリケーション課題を冬期休暇の宿題として実施するというものです。

 「自宅からネットワークにつなげられるか否かの検証は過去に幾度か実施してきましたが、全校児童に対してChromebookを持ち帰ってもらい、課題を配布するのは今回の冬期休暇が初めてです。Chromebookの持ち帰り対象を、全児童として実施したのは、ICT端末は紙や鉛筆と同じように、勉強で日常的に使うツールであると児童たちに認識してもらいたかったからです」(横手教諭)

 同校ではまた、独自に「GIGA検定」を策定し、児童たちによるChromebookの活用レベルや使い方を点検する取り組みも展開しています。

 「GIGA検定によって、改めて活用レベルを確認でき、ICT活用のスキル獲得に児童がより積極的になり、それが彼らのスキル向上へとつながり、主体的で対話的な学びにもつながっていくと期待しています。また、ICT活用スキルの向上だけではなく、情報モラルを含めたITリテラシーの向上も重要ですので、その取り組みにも一層の力を注いでいきたいと考えます」(東川教諭)

 一方、教員にもICT活用のスキルアップが必要とされますが、まずは授業での実践の積み重ねが大切であると東川教諭は述べ、次のように話を締めくくります。

 「教育でのICT活用の大きなメリットは、児童たちが自分の学びのペースやスタイルに合ったコンテンツ(アプリケーション)を選択できる点にあると考えています。『まなびポケット』は、そうした学びの個別化に対応できるアプリケーションの豊富さという特徴があります。一方で『まなびポケット』は、アプリケーションによって教員画面と児童画面の形式が違うものがあるため、教員画面からも児童画面を閲覧できるようになることを望んでいます。私たちとしてもさまざまなアプリケーションの活用を重ねながら、1人1人の児童にとって良い学びを追求していきたいと思います。その中で、児童が自分で学習すべき教科や単元を判断できる力の向上も図っていくつもりです」